子どもの障害が分かって、親として療育や子どもへの対応について努力を重ねて来ても、成長とともに様々な刺激に対応できなくなってきた子ども達は、問題行動などが増えてしまうことも少なくありません。

親は疲弊したり悩んだりと、抱え込んだ日々を過ごしていることも少なくなく、それが医療との繫がりを考えるきっかけになることが多いようです。

医療では、子どもの特性を見極めた上で、療育やカウンセリング、薬の処方などが行なわれますが、親の間でも時々論議を呼ぶのが薬の処方です。

生活に支障を来すほどの問題行動になってくると、そこで処方されるのが「向精神薬」といわれる薬ですが、処方される意味は、実は問題行動を抑えるということに特化しているわけではありません。

今回、この向精神薬について考えるとともに、親の立ち場から、親はどんな気持ちで投薬をさせているのか、またはさせないのか、様々な葛藤がある現実も知ってほしいと思います。

また、周りはそれをどう受け止めて、どう支援していけばよいのか、そのことについても触れていきたいと思います。

◇薬に肯定的な親は少ない

風邪をひけば風邪薬を飲みますが、案外気軽に市販薬などを飲んでいる人は多いような気がします。ただ、風邪などの病状は、よほどでなければ長期に渡ることはないので、薬も症状が治まれば飲む必要はなくなります。

しかし、向精神薬など長期にわたって服用しなければならない薬は、そのリスクも知っておかなければなりません。

当然、親達はそのリスクを考えながら、医師と相談して服用をさせていくのですが、そのリスクが親達を悩ませることになるのです。

ここで知ってほしいのは、親は、問題行動が減るなら、少しでも楽になるならと進んで服用させるわけではないということです。そもそも薬で障害が治るわけでもなく、問題行動が全て抑え込めるわけでもないことは、親は百も承知なんです。

正直、親はそのリスクに恐怖します。血中濃度を一定に保たなければ、その効果も見えてきませんし、突然止めてしまったときの危険も知った上で、処方してもらうかどうかを決めなければなりません。だから、親の感情として、ずっと飲ませ続けることに二も足を踏んだりしてしまいます。

向精神薬は、これを飲まなければすぐに命に関わる、というような病気に使われることはありません。それも投薬をためらう一つの要因にもなっています。

医師に相談をして、親としての気持ちをしっかり伝えて、それから服薬を始めるのですが、多くの親達は、完全に納得して始めるということはないと思います。

◇周りよりも本人のためということを理解すれば、薬の見方も変わる

わたしの経験ですが、医師と相談するうちに、医師に言われた言葉があります。わたしは、それで息子に投薬することを決心しました。それは

「薬は行動を抑えるものではなく、辛くて困っている子どもさん自身を、少しでも楽にしてあげるためにあるんです」

衝撃でした。困っているのは親や周りだけではなく、むしろ息子自身だったんです。

「わたしを助けて」という思いは「息子を助けて」という思いに変わりました。

実は、その医師にかかる前に別の病院に通っていたのですが、投薬については相談も説明もなく、処方された薬を納得することもできないまま、それでも医師が言うのだからと自分に言い聞かせて息子に飲ませていました。

それだけではありません。周りからも、問題行動は薬で何とかなる……とか、周りに迷惑をかけずにすむように、薬で問題行動を抑えなさい! と言ってくる人達もいるのです。

これは正直辛かった。“周りに迷惑をかける”というワードは、多くの母親の心を壊します。わたしもそうでした。

しかし、その当時は薬の効果を実感することはなく、問題行動は激化するばかり。これで周りへの迷惑が減るのか、果たして飲ませている意味があるのか……周りの目と葛藤が、母としての責任が、自分を責め立てたました。

その後、縁あって今の病院に変えましたが、薬については医師が説明をしてくれて、以前処方された薬のトラウマについてもきちんと聞いてもらいました。

その上で、息子のために今までと違う薬を処方するけれど、少しずつ量を調整しながら、将来的には減らしていけるようにしましょうと言われ、現在は診察とカウンセリングで、薬についても考えてもらっています。

薬は周りのために飲むものではない。本人のためのものだ!

そう思えたとき、親としての気持ちが随分軽くなったのです。

◇薬で子どもの行動を抑えられるというのは誤解

風邪薬などは、処方されてからずっと同じ働きをして病気の症状を沈めていきますが、向精神薬は、ずっと飲み続ければ問題行動を抑えていけるというものではありません。

現に、息子も調子の良いときと悪いときは混在していて、息子の状態を見ながら、医師が処方を考えていってくれているのです。

薬がずっと問題行動を抑え続けられるのであれば、カウンセリングの必要もなく、子どものコントロールに苦労することもないでしょう。

今起きている現状を考慮しながら、医師としっかり話し合い、その時その時で本人の辛さを少しでも軽くするためにはどうすればいいのか、考えていく必要があるのです。当然、薬もその検討の中に含まれます。

実は、子ども達の精神に影響を及ぼすのは、その時の体調や周りの状況、そして自分達ではどうすることもできない環境です。闇雲に、何もない中にパニックや問題行動は起きません。

天気や気圧、突然やって来る世間の音や人の声、理解してもらえない人達から浴びせられるキツい表情や言葉、子ども達が自分の苦手とすることから逃げたり、回避することは、そんなに簡単なことではないのです。

息子が一時期発作が頻発したことで、発作の薬が増え、向精神薬が減らされた時期がありました。向精神薬が、発作を誘発しやすいという理由からでした。

発作は減りましたが、よく笑う息子の表情が険しくなり、パニックと暴れることが激化しました。ちょうど思春期の頃で、健常と言われている子ども達と同じように、精神的にも不安定な頃でした。

その時、しばらく問題行動を我慢して発作を治めるか、それとも発作は頻発するが、笑顔の多い前の状態に戻すかで選択を迫られました。

どちらがより息子を助けられるのか、その時も医師と話し合い、必死で悩んだ末に後者を選びました。

正直、どちらが良かったかなんて未だにわかりません。発作の度にぐったりする息子に、ごめんごめんと謝りながら、それでも笑顔を見せてくれる息子に、またごめんと言っていたのを思い出します。

今は気付くほどの発作もほとんどなくなり、笑顔の息子に救われていますが、決して軽い気持ちで投薬をしていないし、今だって葛藤は消えていません。

◇投薬をしないと決めたお母さん達が選択していること

悩んで考えて投薬を決心する親もいますが、悩んで決心して投薬をしない親もいます。もちろん、選択は自由です。投薬を最初からしないと決めること、または飲んでいた薬を止めることで、代替えを考えて実行している人達もいます。

中には正直「何でそれ?」というものもありますが、実際によく聞くのは、鍼やお灸などの物理療法や、アロマテラピーなどです。

漢方薬を飲んでいるという人もいましたが、実際は漢方薬も副作用はありますので、それも飲ませないというお母さんもいます。

時々、薬を飲ませた方が良いのでは?という周囲の声も聞かれますが、自分の子どものことを思って、子どものためにと行動をされている点では、実は投薬をしているお子さんの親御さんも、投薬をしないと決めた親御さんも、到達したいところは同じなんです。

実際、息子にはアロマテラピーを受けさせていた時期がありました。寝ているときも体がこわばっていて、なかなか弛緩できません。体が早く痛むと言われ、更に弛緩剤を増やすよりも、何か方法がないかと探したところ、アロマテラピーにたどり着きました。理解のあるセラピストさんを探して、定期的にお願いしました。

実際、施術中は体を弛緩することができて、本人も喜んで通うことができました。

残念ながらセラピストさんが引っ越しされて、今は受けていませんが、あんなにガチガチの体が緩む瞬間を目の当たりにして、その効果を実感したのは事実です。

その他に鍼やお灸などについても、何かしら効果を得たという方がいらっしゃれば、ぜひコメント欄にて教えていただければ有り難いです。

◇自分で薬の管理を始めた小学三年生の男の子

わたしが仕事で関わった子どもさんのお母さんで、どちらかというと拒否という立ち場ではなく、薬に対して無関心な方がいらっしゃいました。薬の管理は、まだ小学三年生の息子さんに任せているということでした。

彼はADHDと診断されていて、不注意、多動性、衝動性、過集中の全てが当てはまりました。問題行動といわれてしまうことをほぼ毎日起してしまっていて、強い正義感があるのに表現がかなりまずく、全て後で気付いて傷つき、評価を下げることを親に言ってほしくないと懇願してきました。

彼の優しい一面はスタッフもよく知っていて、彼自身が自分の評価を高めるためにどうすればいいのか、よく話し合われました。

ある時から彼は、落ち着いて過ごせる日が増えてきました。その要因は何なのかと探ってみると、自分で薬を飲み始めたというのです。

その薬には吐き気や眠気などの副作用があり、食欲が減退して、実際に吐くこともありました。正直その副作用は辛いものに違いないのですが、彼はそれでも、薬を飲めば調子がいいんだと話してくれたのです。

副作用の辛さよりも、彼は自分が調子がいいと実感できる方を選んだのです。

怒られることも減って、周りからの評価も、自分自身の評価も上げるために、薬を飲むという手段があるとことを彼は学習したのでしょう。

副作用が出てしまうことよりも、周りが自分を認めてくれることが、ずっと大事だったのだと思います。

わたしも、彼のこのエピソードから学ぶものは多かったと思います。

薬は、飲むか飲まないか、本人が決められるということは大きいのです。本人が飲みたいと言っても、飲まないと言っても、周りがそれを否定はできません。体調も心の調子も、本人ほど判る人はいないのですから。

◇周りは先生になりがち・・・できるところは別にある

前にも述べましたが、薬は問題行動を抑えるためにあるのではなく、本人の辛さを少しでも楽にするためにあるのです。

ある人から、子どもに薬を飲ませるためにはどうしたらよいのか? と聞かれたことがあります。

話を聞くと、問題行動が増えて、周りから薬を飲ませなさいと言われているとのこと。その周りとは、全く医療とは関係のない人達で、問題行動で周りが困るから薬で抑えなさい、あなたもそれが楽になるはずだ……ということらしいのです。

つまりは、周りのために投薬をしなさいということ。ひいてはそれが、お母さんのためになるという意味。

そもそもその子は専門医に受診歴もなく、まずは病院を探すところから始めなければならない状態でした。

実は、知的障害の子どもが、専門医のいる医療機関に受診したことがないという話しは、珍しいことではなく、このことは大きな問題でもあります。病院自体も数が少なく、予約しても何ヶ月も先だったり、結局受診を諦めざる得ない子ども達もたくさんいます。

専門医につながることができれば、投薬の相談はもちろんのこと、風邪を引いたり、おなかを壊したりしても、待てなかったり、場所が変わって不安で暴れてしまったり、病院を受診することが難しい子ども達にとって、そんな子ども達でも受け入れてくれる病院へ仲介してくれたり、できる時はその後の治療を引き継いでくれたり、メリットは大きいのです。

それにしても、そのお母さんの話しを聞くと、その中心が周りの人達、つまり説得している人達の都合になっていることが、わたしは何とも違和感を感じてしまいました。

よく、周りの人達が先生になって、こうすれば障害が軽くなる、ああすれば周りに迷惑をかけずにすむ、お母さん、頑張りなさい! と言われる方達を見受けます。

だいたい、そんな方達の情報源は、本やテレビ情報などの、本人に直接関わっていないものから発生したものが多いようです。それが、親達を振り回すことになってしまいます。現に、そのお母さんは周りの医師でもない人から投薬を勧められて「飲ませなければいけないんだ!」と悩んでいたからです。

誰しもいつも心にとどめておいて頂きたいのは、本人が一番辛くて困っているということです。

周りが自分達を中心にして考えることと、本人を中心にして考えることでは、全く言葉掛けも対応も違ってくるはずです。

一番困って辛いのは、本人であるということ。

周りの人を含めた環境が、彼らの情緒にも大きく影響するということ。

本人を取り巻く周りの人達が、目の前のその子自身を知って、理解しようとするだけで、パニックも問題行動もなぜ起こったのか、そして、本人を排除しない解決法までも考えられるようになるはずです。

それができている環境にいる子ども達は、もしかしたら、薬のことを考える必要はないのかも知れません。

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