成年後見制度に続いて、保険信託についてファイナンシャルプランナーの藤野さんから、その仕組みと実行についてお話をいただきました。

藤野さんより——————————————————————

前回は軽く保険信託のことについてお話しいたしました。
今回は具体的な内容を含めてお話しさせていただきます。
(解りやすい説明とともに、成年後見のお話の後にお聞きしたので、前回よりもさら理解しやすかったです!)

ファイナンシャルプランナー(プルデンシャル生命保険)

プルデンシャル生命保険  https://www.prudential.co.jp/

プルデンシャル信託株式会社 http://www.pru-trust.co.jp/

認定NPO法人ピーサポネット https://www.p-sapo.jp/
飼主にもしもの事があった時に、民事信託の仕組みや生命保険信託などを利用して、残されたペットがその後も不自由なく健やかな生涯を送る為の資金と場所を提供するサービスです。他界した飼主の生命保険金を残されたペットの為に利用できるのは認定NPO法人ピーサポネットが提唱する「ラブポチ信託®」だけで、日本初のサービスです。
(ピーサポネットHP/ラブポチ信託より引用)

今年8月にNPO法人の認定を受け、今後は全国展開されるそうです。
いつかこの法人で、障害者に関わる仕組みも作りたいと、たくさんのアイディアを持っていらしゃいました。
今後の展開も楽しみです!


なぜ保険信託は生まれたのか

親亡き後の障害を持った子供へ、経済的支援をしたいという思いから、2010年にプルデンシャル生命保険と三井住友信託銀行が開発をした商品です。
当時は大変話題になり、弁護士などからも問い合わせも多かったです。

現在、生命保険信託を取り扱っている保険会社も増えました。
プルデンシャル生命保険の他に、ソニー生命、第一生命、富士生命が行っています。

保険信託の契約と流れ

(実行例)
お父さんが亡くなって家族4人:母・長女・長男(障害を持っている)
①保険契約締結
母が保険会社と契約を結ぶ(最低死亡保険3,000万円)

②信託契約締結
母が三井住友銀行と信託契約を結ぶ
(信託契約の例)
親が亡くなると、信託契約に基づいて、障害を持った子供に毎月○万円生活費を交付する→→→その後、今度は障害を持った子どもが亡くなったら、兄弟児に支援金をそのまま渡したい→→→さらに兄弟児が亡くなってまだ保険金が残っていたら、お世話になった施設に寄付したい→→→その思いを果たすまで行う

母が亡くなる

③保険金支払い
保険会社から保険金がおりて、そのお金を三井住友信託銀行が預かる
(信託銀行が受託者という形になり、お金を預かって管理する)

④生活費の交付
第1受益者である長男(障害を持った子供)へ、信託契約に基づいて生活支援のための、毎月決まった額の生活費交付を行う

長男が亡くなる

⑤生活費の交付
第2受益者である長女(障害者の兄弟など)へ、信託契約に基づいて生活支援のための生活費交付を行う

長女が亡くなる

⑥残余財産を寄付
残された財産がまだあれば、信託契約に基づいて施設やNPO法人などに寄付をする

遺言書では「誰にお金を渡すか」までしかできません。
生命保険信託では、例えば最初に障害を持った子どもがお金をもらい、その後、兄弟児が、そのあと施設が・・・などの使い道を決めるなど、遺言書ではできない部分を実行することができます。

生きている間に、自分の生命保険の使い道を、先々まで指定して決めてしまえるのが生命保険信託の大きなメリットです。

仕組みとしてはとても良いものなのですが、実際にはなかなか広がりませんでした。
その理由は、必要なお金の多さにありました。

生命保険信託が広がらなかった理由

上の図を参考にして頂きたいのですが、保険信託を実行するのには最低死亡保険が決められていて、その他にも契約料や手数料など、多くの費用がかかります。

・最低死亡保険金額が3,000万円
しかも、これは最低金額です。当然保険料は、かなりの高額になってしまいます。

・信託契約料が50,000円必要
契約料として5万円+消費税が必要です。
1度だけの支払いですが、かなりの負担にもなります。

・信託実行手数料が最低100万円   
例えばお母さんが保険契約をした場合、お母さんが亡くなって、いよいよ信託契約を実行することになった時、最初に必要になるお金です。
しかもこれが最低金額です。

・管理手数料が1年に1度引き落とされる
信託会社はお金を管理していかなければならないので、その手数料がかかります。
金額は残余財産の2パーセントで、毎年1回3月に引き落とされます。

◾️実行した時の費用の例
3,000万円の保険を使って信託契約をした場合
○信託実行手数料100万円支払い
残高2900万円

○1年間障害を持った子供に渡す(例:年間400万円)
残高2,500万円<3月の段階で>

管理手数料の2%(2,500万円の2%である50万円)が引かれる
残高2,450万円<4月の段階で>

こうしてみると、3千万円もの金額で契約したとしても、手数料だけでも毎年かなりの費用が必要になり、正直財産はいくらあったら足りるのかわからないという、厳しい考えに至るのは当然のことです。
実際に契約に至ったのは、資産家ばかりという現実がありました。

しかし、仕組みは大変よくできているので、それを生かしながら費用面をなんとかできないか、資産家でなくても、親亡き後の困難に寄り添える方法がないかとプルデンシャル生命では考えました。

その結果、2015年にプルデンシャル生命保険の100パーセント子会社として、プルデンシャル信託株式会社を作りました。
生命保険会社が信託会社を持っている、日本で唯一の生命保険会社となりました。

生命保険信託契約の高いハードルを下げることに成功

なんといっても、生命保険信託の契約に関する越えづらいハードルは、その高い費用面にありました。
しかし、子会社設立でその高いハードルを一気に下げることに成功したのです。

子会社設立によって今までとどう変わったのか

今まで契約していた三井住友信託銀行がプルデンシャルの子会社に変わったことで、費用面が次のように変わりました。

・最低死亡保険 3000万円(従来)→→→ 100万円

・信託契約料 50,000円(従来)→→→ 5,000円

・信託実行手数料 100万円(従来)→→→信託財産の2%
      (信託財産が200万円なら4万円という計算)

・管理手数料 残余財産の2パーセント(従来)→→→信託財産に関係なく年間2万円

このように、料金をかなり抑えて運用できるようになったことで、少しずつ広まりつつあります。

◾️具体的な活用法

(実行例)
家族5人:父・母・長男・次男(障害を持っている)・長女
父親が保険に加入・信託契約
・第一受益者(父が亡くなって1番目にお金を受け取る人):母
・第二受益者(父が亡くなって2番目にお金を受け取る人):障害がある次男
長男に指図権者になってもらう(突発的にお金が必要になった時に、次男にアドバイスをする)

父親が亡くなる

①信託財産交付
信託財産が母に渡される

そのお金を使って、信託設定を再度行う
第一受益者を母から次男に設定

母が亡くなる

②信託財産交付
次男に父の分の信託財産と、新たに入っていた母の信託財産が渡される。
その場合「月に○万円」という具合に支援金として渡していく

次男が亡くなる

③残余財産一括交付
残っている父と母の信託財産が長男、長女に一括で交付される

・・・などのように設定することが可能です。

金銭的な負担は、最初のお父さんが契約したときの金額で、そのまま賄うことができます。
お父さんがなくなったら、お母さんがその保険金の一部を使って新たな保険に入ります。

この方法であれば、経済的な負担はかなり少なくて済むので、銀行が信託会社になったことで、生命保険信託が随分と使いやすくなりました。

それぞれの家庭の事情からくる、その思いだったり、使い勝手だったり、さまざまなパターンから契約内容を作ることができるので、自分の家庭であったらどうかなと、一度考えてみるのもいいと思います。

◾️子会社を持たない生命保険信託の場合の費用
プルデンシャル以外の保険信託は子会社がないので、受託者は全て信託銀行です。
現在生命保険信託が活用できるのは、第一生命、ソニー生命、富士生命、この3社です。
もし、今加入している保険でその中のどれかに入っていたら、相談してみるとよいと思います。

最低死亡保険金はソニー生命で3000万円・第一生命は1000万円、富士生命は200万円です。
信託契約料はどこも5万円。信託実行手数料は100万円以上です。

◾️保険は健康なうちにしか入れない・・・信託契約の場合は?
保険は、契約する人が健康でなければ入れません。では、信託契約についても同じなのでしょうか。
実は、信託契約は保険に入ってさえいれば、いつでも設定することができます。

保険にはすでに入っていて、信託契約をしようと思った時、その前に癌になってしまっていたとしても契約することができます。
もちろん、健康なうちに保険に入っていることは絶対条件になります。

◾️保険に入るなら終身保険がベスト!とはいえ保険料が高い・・・なので・・・
信託契約をする前に入る保険は、終身保険に入るのがベストではあります。しかし保険料がかなり高く、今の生活を圧迫するというデメリットは大きいので、考えてしまうものです。

例えば5,000万円の死亡保障が必要として、まずは掛け捨ての定期保険(金額は安い)に入り、兄弟の教育や面倒を見るお金に使うことを優先します。 
そして、それが落ちいて少し余裕ができたところで、定期保険を終身保険に変換するという方法があります。

病気をした後に新たに保険には入れませんが、5,000万円の死亡保障の枠をすでに持っていれば、無告知、無審査、書面だけの手続で変換を済ませることができます。

さらに、プルデンシャル信託での契約であれば、死亡保証は100万円から始められられますし、全体の金額も随分と抑えることができます。

親亡き後を考えた時、保険信託を考えているなら健康なうちに保険に入っておくこと、そして信託に必要な保障枠は確保しておくということを、頭の中に入れておきましょう。

今回、保険信託についての勉強を終えて

親亡き後の子供の財産を守る方法として、成年後見制度の他にも、保険信託という手段があることを理解できたことは大きかったと思います。

以前に聞こえてきていた保険信託の噂は、そもそも多くの財産を持っている人でなければ使えない!というものでした。

しかし、かかる費用はやり方しだいで節約可能であること、また信託銀行の他に信託会社と契約する方法があり、選択肢は一つではないことを理解しました。

そして、遺言書でも賄えない、お金を渡した後のお金の使い道も、先を見越しながらその家庭に合った設定をするなど、それが保険でできるということに驚きました。

勉強会を終えて、ひとつ強く思ったことがあります。
それは、自分の大事な子供のために保険信託を使う場合、それに関わってもらう銀行や保険会社の担当の人達と、しっかりコミュニケーションをれる関係になっておくべきだということです。

子供を真ん中に、子供が親亡き後も生きていけるようにと、その設計を共に考えてくれるスタッフが側に居てくれるという心強さは、親にだけではなく、子供にとっても大事なことです。

子供の周りには、福祉のみならず、法律、金融などのプロとの繋がりも重要であるということを、今回の勉強会でさらに強く思いました。

今後も、この勉強会は続けていきたいと思います。

勉強会は、福岡市東区の箱崎駅近くのピーサポネットで行なっています。
勉強会に参加したい方は、こちらのコメント欄か、親亡き後を考える会のFacebookにコメントをお願いします。

第3回親亡き後を考える会(hand to hand)は、親の現在のリアルについて語り、理解し合い、情報交換と問題解決に向けたアイデアを出し合う時間にしたいと思います。

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