令和元年をしめくくるhand to handの勉強会は、入所施設の職員であり、社会福祉士の中田大輔さんをお迎えし、福祉の立場でされている後見人としての業務、その想い、またご自身が障害を持ってある兄弟がいらっしゃる立場として、さまざまな視点からお話をいただきました。
参加者からも多くの質問や想いなどが飛び出し、白熱したよい時間となりました。初めて参加された方からも、大変有意義な勉強会だったと感想もいただいています。
中田さんのお話の進行が、クイズ形式で問題、解答、解説というユニークな形式から始まり、前回行なった勉強会の復習にもなったとともに、たくさんの質問も飛んで、かなり濃い内容となりました。
まずはクイズを解いてみよう!
成年後見制度○×クイズ
Q1. 成年後見制度には、①ノーマライゼーション(障害の有無に関わらず誰もが地域で安心して暮らすこと)、②自己決定の尊重(ご本人の意思や生き方を尊重すること)、③残存能力の活用(ご本人の残された能力を最大限に使うこと)の3つの理念がある
解答○
Q2. 成年後見制度は、2000年4月に「介護保険制度」がスタートし、利用者(本人)が事業者と「契約」して介護サービスを受けるようになったと同時に、既に判断能力が十分でなく、事業者と契約できない利用者等を支援する「成年後見制度」も始まった制度である。
解答○
Q3. 成年後見制度の申し立てができる人は、本人・配偶者・四親等内の親族・市町村長等である。
解答○
Q4. 申立てに必要な書類の準備は、本人や家族でしても良い。
解答○
問題なし。
ただし、色々揃えなければならない書類があり大変。なので、司法書士や弁護士に頼んだりしている方もいます。
Q5. 申立ての際は、社会福祉士に書類作成の代行を頼む事ができる。
解答×
社会福祉士が報酬を得ることを目的として申し立て支援を行うことは、非弁行為(弁護士の資格を持たずに報酬を得る行為)であり、弁護士や司法書士のように資格のない人が行うことは法律に抵触することになる。
Q6. 成年後見制度には、法定後見制度と任意後見制度の2種類がある。
解答○
Q7. 法定後見制度には、全面支援、一部支援、見守りの3類型がある。
解答×
後見の3類型は「後見」「保佐」「補助」のことである。
・後見
判断能力がほとんどなくなった人に適応。家裁で選任された成年後見人が、被後見人に不利益が生じないように法的に支援、保護を行う。
・保佐
日常的な生活はできても、判断能力が相当程度低下した人に適応。被後見人が法的契約などを行う時、能力が低下して難しい場合、その法律行為を法的に支援することで被後見人を守る行為のこと。
・補助
判断能力がある程度低下しており、上記2つよりも軽度な人に適応。日常生活には問題はなくても、自分で判断が難しい場合があり、それにより不利益が起きてしまわないように法的な支援を行う。
Q8. 成年後見人の仕事は、財産を管理する事である。
解答×
後見人の仕事は財産管理と身上監護である。
・身上監護
介護を受けたり、病院に入院するなどの手続きを行う法律行為のこと。
Q9. 財産管理とは、預貯金の入出金チェックと必要な費用の支払い、不動産の管理をする事である。
解答○
定期的に訪問することによって、本人の状況を確認して報告をする義務がある。
Q10. 身上監護とは、被後見人の生活、療養、介護等に関する身の回りのお世話を後見人が行う事である。
解答×
後見人は事実行為(食事や排泄、病院などの付添い等の介助)はできない。親族後見人は問題ないと思われるが、専門職後見人の場合はできない。
このような介助の問題が出た場合は、介護保険やその他の制度を利用して、ヘルパーなどの専門家に依頼することにより対応していくことになる。
後見人でいう身上監護は、法律行為であり、家賃、医療費、税金の支払いなどがそれに当たる。
Q11. 成年後見人は、被後見人の緊急手術の場合、医療同意書にサインをする事ができる。
解答×
医療行為の同意は本人にしかできない。
ここが成年後見制度の一つの課題とも思われる。身寄りのない方はどうするのかなどの問題もある。
令和元年の6月に厚生労働省が一つのガイドラインを出し進展があった。厚生労働相のホームページなどで確認することができる。
https://www.mhlw.go.jp/content/000516181.pdf
Q12. 成年後見人は、本人が勝手に結婚してしまったらその行為を取り消すことができる。
解答×
本人の結婚、離婚、養子縁組、養子離縁などに関して、たとえ代理人であっても、それに関わることはできない。本人の意思のみで決定されることであって、代理人には馴染まないという考えによるもの。
Q13. 成年後見人は、本人が買った、歯ブラシやトイレットペーパー等の日用品の購入も取り消す事ができる。
解答×
被後見人は、日用品の購入に関しては後見人を介すことなく、普通に行うことができる。
Q14. 成年後見人は、本人の住んでいる居住用不動産を勝手に処分する事ができる。
解答×(法定後見人の場合)○(任意後見人の場合)
法定後見人である場合、本人の意思が確認できないのにも関わらず処分してしまうと、本人にとっては財産を失うばかりではなく、今後の生活や精神面に多大な影響を与えることは明白。よって、家庭裁判所の許可を得た時のみ処分ができることになっている。
ただし、任意後見人である場合は、本人の意思決定が可能として、裁判所の許可は必要ない。
Q15. 成年後見人は、被後見人が亡くなった時点で後見人としての役割が終了する。
解答○
ご本人が亡くなったら、法律上はそこで成年後見人の仕事は終わる。
しかし、そこで問題が発生する。それは「葬儀」である。
裁判所に申し出れば、後見人が執り行うことができるが、実は今までは曖昧だった。
平成28年の10月に、被後見人が亡くなった後に、個々の相続遺産の保存に必要な行為、債務清算、火葬、または埋葬に関する契約の締結など、一定範囲で後見人が執り行うことができると法律で明確化された。(ただし、一部家庭裁判所の許可が必要な行為もある)
Q16. 遺産分割協議において、後見人と被後見人がいずれも相続人である場合、後見人は、被後見人の取り分を決める事ができる。
解答×
利益相反(一方の利益になる場合、もう一方には不利益になる)に関することは後見人にはできない。例えば親子ともに相続人である場合は、特別代理人という人を間に置いて公平に分配できるようにする。
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クイズの後は中田さんの業務の内容のお話に進み、参加者全員でさらに深くディスカッションすることができました。

後見人を始めて苦労したこと・・・被後見人の情報があまりない!?
ご両親がなくなっていたので、ご本人の情報が簡単なことしかわかりませんでした。そこで家庭裁判所に行って、ご本人の情報や財産の状況を調べなければなりませんでした。
被後見人の方の情報を集めることまでしなければならないのですか?
集めるところからします。財産がなくなって誰か親族に引き継ぐ場合も出てくると、その親族も探さなければなりません。状況によっては、弁護士等の法律の専門家の力を借りたりすることもあります。
私は、障害福祉課に相談し、保護課に連絡を取ってもらい、それが行えそうな親族はいないか調べてもらいました。そこで近隣県に父方の親戚が見つかり、その親戚に保護課からこちらの事情を親族の方へ連絡をしてもらいました。
こちらから親族へ連絡をする許可を取ってもらい、その後自分からも親戚の方に連絡を取りました。
医療同意は自分の立場ではできないので、いざという時は手伝って頂きたいことを伝え、お願いをしたところ、了承をいただくことができました。
しかし、その親戚の方も先が長くない様子なので、先々その方に何かがあった時は私がしないといけなくなります。その時は大丈夫なのかという不安が少しあります。
情報を収集してまずやったことは?
まずは財産管理のための、ご本人の銀行口座の開設でした。
その際、先に登記事項証明書を取って、権限が自分にあり「後見人である」ということを証明する必要があります。
けれど、自分は登記事項証明書ができるのを待たずに、その前に動きたいと思いました。そこで、審判の確定証明書(登記される前に“確定していますよ”という証明書)を使って証明を行ない、開設することができました。
※通帳にはご本人の名前と、成年後見人〇〇というように連名されているそうです。
施設との契約も、措置制度を解除して普通に契約を結びなおさなければならなかったので、施設に自分が後見人になったことを説明して、施設側と話し合いをしました。
市役所の障害福祉課とも、後見人の申し立て費用などについての打ち合わせをしました。
そうやって口座に伴うことが落ち着いたところで、ご本人の財産をそのままお預かりし、そこから管理を始めて現在に至っています。
また、税金関係のお金の管理についても年金事務所を訪れ、後見人として手続きを行なったりしました。
現在も、施設の利用料や日常に必要なお金、福祉サービスの継続に関する手続き、福祉用具にかかわる支払いなども行っています。
自分の仕事に並行して後見人の業務をされているのですね?
日中は自分の仕事をしているので、時間を作るのは大変でした。日中しか開いていない公的機関の時間と、仕事などで自分の都合のつく時間とは合わないので、自分の動ける時間を少しずつ捻出しながら動きました。
また、月一回は面会に必ず行っています。その他にも、施設の方からご本人の体調不良などの情報が入れば、施設を訪問して様子を見に行くようにしています。
施設での日常に必要な費用や利用料については、私が管理している口座より出金し、それを施設に預けている施設管理用の口座に振り込んだり、面会の際に持った際に預け、施設管理用口座施設に入金してもらう形で管理してもらっています。
家族として取り組んでおくべきことはありますか?
このような勉強会などに参加して、色んな情報を得る繋がりを作っていくことが大事だと思います。
自分自身も日々勉強させてもらっています。
後見人としての想い、またやっていて良かったと思えたことは?
私は後見人として、ご本人の意思を汲み取りながら本人らしい生活を送って欲しいとの想いでやらせて頂いています。
面会などでお会いした時に、少しずつ関わっていく中で「どうすればこの方にもっと喜んでもらえるのか」「喜んでもらう為にどう財産を使えば良いのか?」を意識しながらやらせてもらっています。
やっていて良かったと思ったのは、知識として勉強するだけでは知らないことが多く、実際に実務をしなければ分からなかったことが非常に多いので、私自身、日々学ばさせて頂いているという思いがあります。
私の職場の施設でも、後見制度を使われている方が何人かいらっしゃるのですが、やっている業務が分かりますので、その方々と後見についてお話することができますし、これから使いたいと思っているご家族などには、制度についてお伝えすることもできます。
本当に後見人をやっていて、損はないと思っています。
後見人として対応される中で、葛藤などはありますか?
私が今一番葛藤していることは、自分の関わる方は最重度で意思を伝えることが難しい方なので、ご本人の意思をどう確認していくのかということです。
挨拶などは返して頂けるし、また一緒に新聞など読んであげたりしながらコミュニケーションを取っています。
ご本人の一つ一つの行動で、ご本人の想いを推察しながらやっているところです。
そうしながらも、本当にこの支援でいいのか・・・と葛藤することがあります。きっとこの葛藤は、ずっと続いていくのだろうと思います。
社会福祉士が後見人をすることでの良い点はどこでしょうか?
やはり大きなメリットは、福祉についての専門的なことに強いということだと思います。
先日、司法書士さんたちとの勉強会に参加しましたが、例えば障害支援区分などについては、やはり福祉の後見人の方が詳しいですし、福祉に関する事は、福祉の専門性のある社会福祉士の方が支援できると思います。。
しかし法律のこととなると、やはり弁護士や司法書士といった専門家の方が強いのです。
ですから、法律関係のトラブルなどが起きた時は、こちらから法律の専門家を頼ったりすることもあります。
どの人が後見人に選ばれるかは、すべて家庭裁判所が決めることですので、お互いの強みを活かし、他分野の専門家が一緒に勉強会などを通して、勉強し合って学んでいくことが、後見制度を利用される方の利益の向上に繋がっていくのではないかと思っています。

社会福祉士は書類作成代行はできないのですか?
できません。弁護士さんや司法書士さんなどにお願いすることになります。社会福祉士は、次につなげるためのコーディネートをするという役割が大きいと思います。
福祉の方の後見人が、今後増えていくと思いますか?
実際に、今後後見人制度を利用する方が増えていけば、やはり福祉関係の後見人も増えていくのではないかと思います。
施設側で、その施設利用者の後見人はできないのでしょうか?
利益相反(一方に利益が生じると、もう一方は不利益になる行為)の観点から、それは法律上することができません。
もしできてしまうと、例えば被後見人の車を後見人に譲渡しようとする際、後見人は不適切な価格で被後見人より車を譲渡してもらうなどの操作が可能になり、被後見人の財産に損害を与える行為が可能になってしまうからです。
本当は、私のようなケースの場合、現状一番本人について理解できているのはその施設の中の支援者だとは思うのですが、それをすることはできないのです。
ここは正直、ジレンマを感じることもあります。
裁判所は、ご本人の意思が確認できない方達に対して、どうやって決定を下しているのだと思いますか?
近年裁判所が力を入れ始めたものに「情報シート」というものがあります。本人の現在の状況を知るために、これが今参考にされているようです。
自分も、これがあったらもっと情報がわかってよかったのに・・・と思います。
後見人はいきなり、第三者が関わることになるので、どんなに福祉の知識があったとしても、ご本人の生活に関わることはわからないことも多いのです。
ですから、親御さんに是非、これを残しておいていただけたらと思います。
○本人情報シート
被後見人の情報を残しておくことで、後見人の業務がやりやすい他、被後見人の理解にも繋がります。
中田さんもその経験から「これはぜひ、残しておいて頂きたいです!」とおっしゃっていました!
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
http://tetote-net.com/wp-content/uploads/2020/01/fe90fc6fe9be98bc88e77641535a0e0b.pdf
法律関係者か、社会福祉士か、裁判所は何を基準に決定していると思いますか?
実際は分かりませんが、感覚的には、財産の管理をしっかりやっていかなければならないような方と、財産よりも福祉に関することをしっかりやっていかなければならない方の違いのように思います。
財産は少ないが、福祉に関する契約や支援が必要な方が、社会福祉士の方に依頼が来ているのではないかと思います。
お話を聞いて驚いたのですが、決められたこと以外の雑務が実に多く感じます
多いです。しかし責任が伴うことなので、情報を集めるのもそうですが、ご本人のためにやっていく必要があります。
専門家や家族がチームになって後見人をすることもありますすか?
ケースによってはあります。財産管理は専門家が、身上監護は家族が・・・などということもあります。
後見人をつけるタイミングとして、どんな時が考えられますか?
あくまで私の考えですが、家族で協力できて何とかなる間は、家族でやってもよいのではないかと思います。
ご家族が亡くなり、契約などの法律行為を行う必要が出てどうしようもなくなった時は、やはり利用しなければならなくなると思います。
家族の想いだったり、ご本人の状況だったりでタイミングを決めなければならないと思いますが、各々のご家族の状況によるので、正解はないと思います。
ご兄弟が障害をお持ちと聞いていますが、ご兄弟の後見人についてはどうお考えですか?
今のところ、本人が家の中が一番落ち着いているということと、我が家は家族の仲が良く、兄弟でも関わっていくことが可能だと考えていて、今のところは利用しようとは考えていません。
費用もかかる現状もありますから、任意後見制度も含めて、今後も社会の動きも見ながら慎重に考えたいです。
第4回 hand to hand の勉強会を終えて
後見人を親族や法律のプロが行うことは知っていても、社会福祉士も関わっているということは案外知られていないようです。
実際に参加者の中でも知らなかった人は多く、業務内容は同じでも、被後見人に対する支援の方向性についての違いが興味深いものでした。
後見人を利用する人が、財産管理を重視した方がよい場合と、福祉の面をより知っている人がよいという場合もあると気付くことができました。
また、法律と福祉の専門家が繋がることで、お互いがカバーし合って被後見人の暮らしの充実を図ることも可能だということがわかり、この点は大きな学びとなりました。

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第5回hand to hand は・・・
第5回hand to hand は、令和2年1月17日に行われました。
ご報告が遅れていて、申し訳ないです。
第5回の勉強会は、障がい者が親元を離れて暮らすことを本人や親が希望したときに突き当たる「受け入れる場所がない」という問題についてでした。
hand to handの後援をしてくださっているサンクスシェアさんにご尽力いただき、集めてもらった資料を参考に、代表の田中さんに解説頂きながら全員で討議し、これからのことを探りました。
ご報告はただいま作成中です。しばらくお待ちください。
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そして第6回hand to hand は・・・
解っているようで実は……そんな声の多い「障害年金」がテーマです。
障害年金のスペシャリスト、社会保険労務士の堤さんをお迎えして、障害者の年金の仕組み、受け取り方、運用の方法、今後の展望などなど、様々な角度から詳しく学び、全員でディスカッションしていきます。
第6回勉強会=======
日時:令和2年 2月21日(金) 19時〜21時
場所:ピーサポネット
福岡県福岡市東区箱崎1丁目10−7 2階
https://www.p-sapo.jp
定員:10名(毎回15名程になっています)
参加費:500円
主催:親亡き後を考える会
後援:サンクスシェア
https://www.thanksshare.jp/
勉強会は、福岡市東区の箱崎駅近くのピーサポネットで行なっています。
勉強会に参加したい方は、こちらのコメント欄か、親亡き後を考える会のFacebookにコメントをお願いします。
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