船崎克彦・作 長新太・絵
◆読み手は噺家、聞き手はお客
「火事とけんかは江戸の華、などともうしますが、名物はそればっかりじゃござんせん。」
今回ご紹介する本は、この文句から始まる物語。
なぞのマメずきんの活躍を描いた、時代活劇でございます。
まだ私の子供が小さかった頃、寝る前の布団の中で読み聞かせていた本の中でも、息子が大笑いしながら聞き入っていたお話でございます。
もちろんこの出だしですから、母は噺家となり、白熱の演技をして物語を語っておりました。
夜ふけの町かどで、辻斬りに襲われた蕎麦屋の主人を助けたのは、このところ瓦版を賑わしているスーパーヒーロー「マメずきん」でございます。
マメずきんってぇのは、甲高い声で笑い、小学生ほどの小さな体でありながら、めっぽう強い謎の人物なんでございます。
このなぞのマメずきんの活躍で、辻斬りを成敗したこのくだりで物語が終わる・・・のかと思いきや、なんと物語の途中に・・・(下に続く)
◆予告編と本編という、まるでドラマのような仕様が斬新
・・・(上からの続き)このタイトルがやってくるのでございます。
普通であれば、本のタイトルは一番最初にくるものでありますが、本の途中の、しかも見開きのページでこのタイトルが入ることで、辻斬りの一件がプロローグ、つまり予告編であったことに気付くのでございます。
さて、この先からが本編でございます。
なめくじ長屋の連中は、今日もマメずきんの話題で持ちきりなんでございますが、長屋には九郎四郎という、ちょっと変わった人物がおりまして、実は剣術の指南役の家柄の立派なお侍でありながら「人殺しの仕方を教えるなど、もうまっぴらじゃ」と浪人となり、日々アルバイトで生計を立てておりました。
九郎四郎には嫁のムメと、一人息子のチャンバラ大好きな野太郎(のたろう)がおりました。
九郎四郎は、長屋の連中に辻斬りの一件で
「こんなときこそ世間さまのお役に立ちゃいいものをさ」
とヒソヒソされておったのでございます。
そんな最中に、長屋の豆腐屋の娘、おたまちゃんが神隠しにあうという事件が起きたのでございます。
おたまちゃんは九郎四郎がバイトの合間に開いている寺子屋の生徒でもありました。
しかもこのところ、子供が神隠しにあう事件が頻発しておりました。
四郎九郎には、心当たりがありました。
そしてある夜、ムメと野太郎が寝てしまったのを見計らって、長屋を抜け出したのでございます。
◆大物ぞろいの役者たち、そしてマメずきんの正体は!?
この物語には、なんと大物の人物が出演しているのでございます。
長屋を飛び出した九郎四郎を襲ってきたのは、丹下左膳でありました。
そして、それを助けたのはマメずきんでございます。
そして、またもや九郎四郎を襲ってきた人物がおりました。
それが鞍馬天狗でございました。
それもまた、マメずきんが救うことになるのであります。
マメずきんは、この神隠しの一件でも大活躍を果たすわけでございますが、物語にはピンチはつきもの。
そんなピンチを救ってくれたのは、仮の姿は瓦版のリポーターで、実の姿は忍びの者(梨元さん)という人物でありました。
そして、逮捕に駆けつけたのは遠山の金さんや水戸黄門という豪華キャストたち。
とんでもない登場人物たちでございます。
そうして、子供達の神隠し事件も一件落着となるのでございますが、物語の途中にはクイズなんかも出されておるのでございます。
あなたは答えることができるのでござんしょうか。
ところで、この物語には肝心のマメずきんが誰だったのか、ただの一語も書かれてはおりません。
さて、マメずきんの正体は一体?
物語を読み進めるうちに、それはきっとわかるはずでござんすよ。
ほらほら、大好きなのはおたまちゃん、大嫌いなものが勉強で、お家柄も一巻のおしまいにしてしまいそうな、あの・・・おっと、ネタバラシはここまででご勘弁。
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