桜がちらほら咲き始めた3月下旬に、強度行動障害について学びあう「KYOUKOU」のメンバー10名で、社会福祉法人「愛光会」の施設見学におじゃまさせて頂きました。
愛光会は施設入所支援を併設した法人で、4つの事業所を持っています。利用者さんはそれぞれの手帳の区分、作業レベルに合わせた作業場に配属されます。
しかし、障害者の福祉施設ならどこの事業所でも、利用者さん達の調子は常に安定しているわけではなく、問題が起きたり、精神的に厳しい状態になり、作業ができなくなることもあります。
愛光会では、それを4つの事業所で解決できるように(今できるところ・今安定できる場所)に配属を変え、解決した所でもとの場所、もとの作業に復帰してもらうなど、臨機応変に対応していました。また、半年ごとに利用者さんと仕事のマッチングが、うまくできているか見直しを行ない、利用者さんの安定とやりがいを求めることに努力されていました。
つまり、今、利用者さんを作業に合わせるためにはどうするか……ではなく、今、利用者さんに合う作業はどれか……それを見極めるということをされていました。
生産性を求められる仕事が多い中、それをポイントにやっていくということは、何よりも利用者さんを大事にしながら、更に社会貢献を目指す、スタッフ全員が高い意識を持っていることがわかります。
それでは4つの事業所や施設について、それぞれに報告します。
清浄学園
○生活介護 定員:69名(現在利用者:79名)常に介護、支援、見守りの必要な人に対する日中支援
○就労継続支援B型 定員:10名(現在利用者:12名)雇用契約が難しい人に対し働く機会と訓練の場を提供
○施設入所支援 定員:60名(現在利用者:60名)入所者に対して、日常生活に必要な支援を、夜間、あるいは休日等は一日通して行なう
○ショートスティ 定員:4名 一時的に入所、宿泊をして日常生活全般の支援を行なう
清浄学園には「明るく自由にいきいきと」というスローガンがあるのだとか。確かに、常に支援の必要な利用者さんと伺いましたが、表情が明るく、仕事にも熱心で驚くほどテキパキしていました。
なにより「こんにちは!」のあいさつが気持ちいい。難しく細かな作業も丁寧に、でもスピードを持ってされていたのには、思わず拍手してしまいました!
「仕事をしているほうが調子がいいんですよ!」という説明もあり、仕事場の空気感に納得のメンバー達でした。
新聞紙を決められた大きさにたたむ作業。
この仕事は切れたことがないそうで、スタッフさん手作りの工夫された作業アイテム(写真)が目を引きました。これを目印に、丁寧に、だけど速いスピードでどんどん仕上がっていきます。角と角が美しいくらい揃えられてたたまれていきました。
「すごいね!」との声掛けに、利用者さんも素敵な笑顔を返してくれました。
その他にも、様々な形の段ボールの加工もしていて、仲間と協力しながら、これまた丁寧迅速に「あ、うん」の呼吸でも会得しているかのような仕事っぷりでした。
どれも、この仕上がりなら依頼主は他のところに発注することはないだろうな、と思わせるクオリティでした。
ラベル貼り、自動車や電気の部品加工なども見学しましたが、ここでも挨拶は気持ちよく、私語もなく真剣に取り組む姿が印象的でした。やはりここでも、スタッフさん手作りの工夫されたアイテムが活躍していました。
正直どの作業場でも、常に支援の必要な利用者さんとは思えないほど、キリッとカッコ良く働く姿を見せて頂き、できることは実はこんなにたくさんある!できないと決めつけないでほしい!と教えてもらった気がしました。
ところで、作業場の他にも利用者さん達に対する思いやりの施設があって、メンバーも興味津々。
タイムアウト部屋
パニックや一時的に人と関われなくなった時など、一人で落ち着くために過ごすことのできる部屋。視覚刺激も抑えるために、必要最小限の家具以外は置いていません。
自閉的傾向をもつ利用者さんにとっては、必要な空間となっているようです。
その他にもクラブ・サークル活動やレクレーション、一泊旅行など、利用者さんの楽しみも確保、秋祭りや運動会などの地域交流も行なっていて、仕事だけではなく、生活が楽しめるようにと様々な取り組みがなされていました。
セルプ清浄
○就労継続支援B型 定員:30名(現在利用者:33名)
○就労移行支援 定員:10名(現在利用者:7名) 一般の企業への就職を目指して、必要なスキルを付けるための支援を行なう
セルプSELPはSupprt(支援)Employment(就労)Living(生活)Participation(社会参加)を意味するのだそうです。つまり、自分にあった働き方で社会に貢献し、自立した生活を獲得することだそうです。
セルプには「手作り菓子工房さくら」「自動車部品加工ホープ」「山本水耕栽園」の3つの作業場があります。
見学した時はみなさん、緊張気味だったみたいで、普段はもっとわきあいあいなんですよ〜とのことでした。清潔な作業場で、たくさんの種類のお菓子が作られていて、玄関にある販売所のお菓子は、かわいくて華やか、しかも安くて驚き!
かなり細かく難しい作業だと思いましたが、みなさん私語ひとつもなく真剣に取り組まれていました。
実はこれらの部品、トヨタレクサスや日産セレナなどの部品です。高級車の部品の取り扱いが多く、自分達が加工した部品でできた車が世界中を走っているという誇りが、利用者さん達の自信にもつながっているようです。
この日以来、一般道で走っているレクサスやセレナを見掛けると「あ、清浄チームの部品を積んだ車かな?」なんて思うようになりました。
山本水耕栽園の「山本」って? と思っていると、やっぱり人のお名前でした。指月電機の会長さんのお名前で、山本重雄氏の寄付金をもとにつくられた施設です。
並んでいる木は、しいたけの菌を植え付ける木です。今はまだ収穫の時期ではないということでしたが、この「しいたけハウス」と呼ばれるハウスの中で、肉厚で濃厚な味のしいたけが、たくさん採れるそうです。なんと木の伐採からするそうで、全ての行程を自分達の手で行なうという拘りに驚きました。
水耕栽培は、見学時に育っていたのは小松菜で、元気で濃い緑の葉っぱたちでした。他にも春菊やほうれん草なども作るそうで、これもまた種まきから出荷までの全ての行程を、利用者さん達の手で行ないます。
セルプもまた、利用者さん達は余暇活動を楽しみにされているようで、旅行もそのひとつです。また、ボウリングも楽しんでいて、福岡県のボウリング大会では、メダルを獲得した方がたくさんいらっしゃるそうです。パンフレットにメダル受賞者の方達の写真が掲載されていて、思わず人数を数えると、なんと18名もいらっしゃいました!
シヅキ福祉工場
○就労継続支援A型 定員:28名(現在利用者:28名) 雇用契約を結び、一定の支援を受けながら社員として働くことができる
障害者に生きがいを! と作られたこの工場は、福岡県内初の民間運営による福祉工場だそうです。運営は1970年創業の「九州指月株式会社」で、シヅキ福祉工場のすぐ側にある大きな会社です。
まず驚いたのが工場の設備です。福祉と名がついていますが、普通に工場です。大きな機械を操る利用者さんの姿を見て、すでに私にはできない作業をされていることに、すごいなぁと感心しながら目を見張るばかりでした。
機械の音以外、人の声は聞こえません。黙々と仕事をされていて、誰もが人の手を借りる場面を見ませんでした。しっかり技術を習得されているようです。
九州指月から、技術を伝えるためにシヅキにこられた工場長の口石さんが、電車や新幹線に使う部品の加工部分を示して、私達に言われた言葉がとても心に残りました。
「この部品に目に見えない小さな穴が一つでも空いていたら、電車は止まってしまいます。障害者が作ったから止まった!と言わせるわけにはいかない。ここは、品質の良さと信頼があるからこそ仕事をもらえているんです」
「シヅキチーム」という言葉が頭に浮かびました。支援側と利用者がひとつになって信頼を獲得しているんだと。
作業の部屋の隣に事務所があります。そこに利用者さん達が入ってくることもありますか?という質問に「ありますよ。ひとしきりしゃべって、また戻ったりね……」「だって、自分達も集中力は、実際は20分くらいしか続かないですしね」と笑って答えられました。
この一見ゆるい対応も、きっと信頼の品質を生み出す一つの要因になっている気がします。お話を伺っていると、そんなコミュニケーションを楽しまれていることもわかりました。利用者さん達のことを理解するのに、1年ほどかかったと言われていましたが、お互いの努力が、今のコミュニケーションにつながったのでしょう。
また、九州指月さんから社内の行事にも招待されるらしく、同じ仲間として受け入れられていて、共に働くという意識が存在しているのだと思いました。
そして、シヅキのユニフォームとも言える作業服は、九州指月さんと同じ作業服です。みなさん、キリッと着こなしていました。
さくらんぼ
○就労継続支援A型 定員:19名(現在利用者:16名)
八角形のかわいい屋根が帽子のように2つものっかっている、かわいいお店です。
ここでは、安心安全で美味しいお菓子とパンを、清潔な工房で製造販売していました。利用者さん達が製造している姿を、ガラス越しに見ることもできます。のぞいてみると、いきいきと働かれていました。
店舗内では、利用者さん達が接客と販売をされています。私達が入店した時も、買い物やランチでとても賑わっていて、人気のお店なんだとわかりました。
店舗に並んでいるお菓子はかなりお安い。早速購入して食べてみましたが、とても美味しかったです。今度はランチに行かなきゃ!
清浄学園グループホーム
清浄学園は施設入所支援を併設していて、ここからそれぞれの作業場に通って日中活動を行なっていますが、その他にもグループホームの居住支援も行なっています。
グループホームは、主に仕事を終えた夕方から夜間、朝出勤までの時間帯において、共同生活を行ないながら日常生活の支援を受けるサービスのことです。
清浄学園では、学園の側に3つのグループホームを運営していて、それぞれが定員30名、計90名の利用者さん達が暮らしています。
入所では二人部屋ですが、グループホームは1人一部屋が確保されていました。それぞれが自立を目指し、ここからセルプ清浄、シヅキ福祉工場、さくらんぼへ通勤しています。
プライバシーも自立心も大事にしながら、ひとりひとりに寄り添っている学園スタッフさん達の姿勢に敬服しました。
まとめ
社会福祉法人「愛光会」はとても大きな法人で、利用者さんの人数も多いという中、それでも利用者さんひとりひとりに寄り添い、愛情を持って接していらっしゃいました。
それぞれの作業場にて、スタッフさんの説明や利用者さん達への対応を見ていて、とても暖かく感じました。
学園内にゲームセンターやカラオケボックス、スヌーズレンを取り入れるなどの工夫にも驚きました。
そして、なにより利用者さん達の表情も良かった。キリリとした表情で黙々とこなしたり、笑顔で接客したり、みなさんの仕事での充実感も感じることができました。
支援をされているスタッフさん達の努力の大きさがあるからこそ、ここまで生き生きと働ける場所になっているのでしょう。仕事に対して全員が誇りを持っているということは、本当にすごいと感心しました。
清浄チームの技術は、段ボールや日常品で世界中の家庭や流通に貢献し、世界中に高級車を走らせ、安全に電車や新幹線を走らせている。これがないなどあり得ないというコンデンサを制作し、そして人を笑顔にする食事も提供して、野菜やお菓子で食卓にも貢献している。
今回の見学会で多くのことを学ぶとともに、障害がある人もない人も、人として向き合ってお互いに仕事をする姿に、本来の仕事の意味まで考えさせられました。
愛光会のホームページはこちらです。チェックしてみて下さい。とてもくわしい内容で、愛光会の全てがわかると思います。個人的には「施設内の紹介」の「施設長室」のお話が好きです!
愛光会ホームページ→http://aikoukai-seijyo.com/index.html
大変貴重な時間でした。愛光会の全ての皆様、有難うございました。
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