丘 修三  作    
かみやしん 絵

この本は児童文学です。
でも、全ての人に読んでほしい本です。

この作品は、障害を持った人たち、家族、友達、周りの人々、その中で起こる障害の問題について書かれた本です。

それにしても、私は障害をテーマにしたもので、ここまですごい作品を他に知りません。

物語は障害を持った子供のいる家庭であれば、本当にありがちなことなのです。
ただ、デリケートな問題として、このような問題が表立って目に見えることはとても少ないのです。

事象は違っていても、似たようなことはいつも近くで起こっている……ということです。

丘修三さんは元養護学校の先生で、ここまでの作品を書けるのは、深くその子供達や家族と関わり、目の前の問題に取り組まれてこられたからなのでしょう。

物語は6つのショートストーリーで構成されています。

その内容は、きっと読む人の気持ちにグイグイ入ってきて、しかも読み終わった後に、すごい感情を残すはずです。

その感情を説明しろと言われても、とてもじゃないけどできません。
できればそれを、全ての人に確かめてほしいのです。

綺麗事ではない、障害を持った子供のいる家庭の日常、それに潜む周りの子供たちの闇の部分、障害によって言葉で伝えられない子供を信じる人、信じない人、障害を恥じる人、それを跳ね返そうとする人……。

ここではその6つの物語の概要をご紹介します。
本編は、ぜひ本を手に取って読んでください。

□ぼくのお姉さん□

正一は学校から出された宿題で悩んでしまいます。それは「兄弟について」というお題の作文でした。

正一にはダウン症のお姉さんがいます。
学校の友達は、お姉さんのことを酷い言葉でばかにします。

でも、正一はお姉さんはいた方がいいと思っています。
お姉さんは優しいということも、お姉さんがお仕事で通所している施設はお姉さんにぴったりだってことも、弟だからこそ知っています。

お姉さんは朝から、何を言っているか考えながら聞かなければならない言葉で、みんなにレストランに行くと言います。
だから、早く帰ってきて!と言います。

その夜、お姉さんの希望通り家族でレストランに行きました。
ウエイターが勘定書をテーブルに置くと、お姉さんがポシェットの中から袋を取り出し、お母さんに渡します。
それを見て、ハッとしたお父さんとお母さんの目が潤みました。

普通ではないかもしれない、ささやかなことかもしれない、それでもお姉さんを受け入れて暮らす家族の優しい時間。

それは、学校でばかにされる時間のその裏側で、ばかにしてくる子たちが知らない、こんなにも豊かな時間を共有する家族がありました。

そして、正一は宿題の作文を書き始めます。

□歯型□

それは、友達の一郎がおつかいの時のお釣りをポケットに入れたまま忘れていて、それを学校帰りに気が付いたことから始まります。

本当は学校帰りの買い食いは禁止されている。
けれど、自販機でジュース2本を買って、隠れて回し飲みした3人の秘密が、この先の事件に大きく関わってくるのです。

いつもと違う道だったこともあり、そこで3人は初めて見る、足のわるい養護学校の生徒が歩いてくることに気付きます。

しげるがぼくと一郎に、にやっと笑って言います。
「おれが、あいつの足をひっかけて、ころぶかどうかカケようぜ」

このカケは成功します。
その日から3人はジュースをカケて、その子をひっくり返すことをまるでゲームのように、執拗に毎日続けたのです。

ある日、その子は公園に逃げ込もうとしました。
3人はその子にすぐに追いつき、暴行を加え、ついに我慢できなくなったその子は、しげるの足に噛みついたのです。

公園にいた老人たちが騒ぎで駆けつけると、そこにいたのは噛み付かれたしげると、一郎とぼく、そして噛み付いているその子。

3人は老人たちに、急に噛み付かれたと言いました。なぜ噛まれたのか知らないと言いました。
老人たちから「謝れ」と言われたその子は、ひどく泣き叫ぶだけでした。

すっかりしげるは被害者となり、3人は口裏を合わせて、誰に聞かれても悪いのはその子だと嘘をつき通しました。

大人たちは言います。

「そんな奴がこのあたりをうろついているんじゃ、安心して子供を外へ出せやしないわよ」

「体は悪いくせに力はあるのねぇ。手かげんできないのよ、バカだから」

その子は言葉を話せませんでしたが、文字盤なら言葉を伝えられました。
そして、その大騒ぎの中で唯一その子を信じたのが、養護学校の先生でした。

養護学校の先生とその子が学校にやってきて、ぼくと一郎に対面しますが、その子が文字盤で「うそ」と伝えてきてもなお、嘘をつき通します。

そして物語の最後に、ぼくの本当の心情が書かれています。
これは、誰にでもある感情、心理、やってしまいがちな行動。そして・・・

「ぼくの心に、あの子の歯型がくっきりとのこった」

この言葉が、とても重々しく話を締めくくります。

□あざ□

重度の知的障害で言葉も持たない久枝。
彼女は電車が大好きで、いつまでも眺めることができて、それで動かなくなってしまって、お母さんが家に連れて帰るのも苦労するほど。

お母さんに用事があるときは、森田さんのおばさんが久枝のことを見ていてくれます。

久枝が森田さんのおばさんの家で過ごしたある日、公子という小学三年生の女の子が遊びに来ました。

そしてその日の夜、お母さんは久枝の体のあちこちに、紫色のあざを見つけます。

またある日、お母さんは電車を見ながら動かなくなってしまった久枝に付き合っていました。
するとそこに公子がやって来て、自分は久枝を知っていると言います。

次の日、公子は久枝の家に遊びに来ます。
そして公子の帰り際に、久枝は公子に手に持っていた積み木を放りました。
お母さんは、公子ちゃんに当たったら危ないと久枝をいさめます。

そしてその日の夜も、お母さんはお風呂場で紫のあざが久枝の体中にあるのを見つけます。

次の日も公子がやって来ましたが、お母さんがあざのことを聞くと、公子は素早く玄関を開けて出て行ってしまいました。

ある時、また電車を見ながら動かない久枝を見て、声をかけた青年がいました。
それは公子の学校の担任で、公子は久枝のことをよく話すと教えてくれます。

実は先生は、ここのところ学校に来なくなった公子の様子を見に行くところでした。

ある日、広い公園で今度は飛行機を見続ける久枝に付き合っていたお母さんは、ある場面を目撃してしまいます。

それは、女の子たちに取り囲まれ、蹴られている女の子。それは公子でした。

女の子たちは声を掛けたお母さんに気付いてはじけ散り、公子はお母さんの胸に顔を埋めて泣きました。
公子の体には・・・。

それからの公子は、久枝の素敵なところを見つけては、久枝とともに喜ぶようになります。
そんな2人を、森田さんのおばさんは羨ましいと言いました。

そして、お母さんが受け取った公子の手紙。そこには、久枝のことがいっぱい書いてありました。
お母さんは胸がいっぱいになります。

そして公子が久枝の家から帰る時、久枝の手に握られた積み木は・・・。
そして、久枝と公子の紫のあざは・・・。

大人たちの優しい目で、2人が育ち合う姿が想像できるラストです。

□首飾り□

同じクラスの朗(あきら)が急に引越しをした。
朗は体が弱く休みがちで、体格も小さかった。

ある日のこと、ウサギ小屋で今にも死にそうなウサギが見つかりました。
先生の言いつけで、当番が学校から獣医さんに連れて行くことになりました。
でも、面倒なことを朗が嬉しそうに、全部引き受けてやってくれたのです。

でも、先生は当番がすることと言っていました。
だから、当番ではない朗がやったことを口止めしなければならない。
そんなことを子供達は企みます。

そんな中、妹が朗のことを「いやらしい子」と言ってきました。
朗は一人っ子で、女の兄弟なんかいないのに、よくアクセサリーを買っていると言うのです。

そして、修学旅行のバスの中でも、朗の買った首飾りが棚から落ちてきたと騒ぎになります。

周りは囃し立て、返して!と言う朗の首飾りが人の手に投げられていきました。
それは、先生の静かにせんか!の声でおさまったのだけれど。

それからしばらくして、朗は転校してしまいます。

そんな朗のことも忘れられてきた頃、学内に住むある人から学校に手紙が届きます。

そこには、なぜ朗がアクセサリーを買っていたのかが書かれていました。

実は手紙の主は、朗のことを、スカートをはいてアクセサリーを付けていた「いやらしい子」と子供達が話をしていたのを聞いてしまったのです。

手紙の主は、子供達に本当にそんな姿を見たのかと聞くと、誰ひとり見てはいませんでした。

真実は、朗は隣に住むアクセサリーの大好きな子にお土産を買っていたのでした。
そして、修学旅行で買ってあげた首飾りをつけて、かすかに微笑んでその子は天に召されたのです。

真実を知った子供達は・・・。

□こおろぎ□

五年生の夏、毎日のように妹と花火をしていた隆。
そして、もう1人の常連に養護学校中学一年生の智君がいました。

智君はにこにこと、じっと見ているだけで手は出しません。
火をつけて持たせてやると、おそるおそる受け取っていました。

けれど、その日は花火をすることができませんでした。
妹はやりたいと言いましたが、できないことがわかって、諦めて二階に行ってしまいます。

しばらくして、空き地が燃えていることに隆は気付きます。
大人たちは慌てて外に出て、みんなで火を消すことに成功しました。

しかし、消し終わった後の公園に立っていたのは、花火の燃えかすを持った智君。そしてその横には、安物のライターが転がっていました。

大人たちは智君に怒鳴ります。智君は喋れません。
知恵遅れの子供を1人にしておくなんて!と、今度は親への暴言が始まります。

その時、智君のお母さんが飛び出してきました。
お母さんは少しの間にいなくなってしまった智君を探していました。

お母さんはそこにいた大人全員に責められます。
でも、お母さんには信じられません。
マッチやライターで火をつけることができない智君に、誰と花火をしたのかとお母さんが聞きますが、智君は答えられません。

お母さんは言います。
「この子がやったんじゃないと思うんです」
すると周りの大人たちは、子が子なら親も親だ!と吐き捨てます。

そこへ智君のお父さんが仕事から帰ってきて、周りの「おたくの坊やが花火をしていた」という言葉に、土下座をして何度も謝りました。

そうして騒ぎはおさまったのですが、そのあとに真実がわかります。

実は、花火をしていたのは妹でした。
それがわかったのは、夜な夜なこおろぎが鳴いていたことからでした。
こおろぎの声を「智君が泣いている」と妹は言うのです。

お父さんは不機嫌になり、お母さんはあまり叱るなと言います。

そしてお父さんは、このことを誰にも言うなと二人に言いました。
隆は、お父さんの嘘つき!洋子も智君も、かわいそうじゃないか!と抗議するのでした。

それからの大人の行動は、兄と妹にとってどう影響したのでしょう。

そうしてまた、花火で遊んでいるとにこにこと智君はやってきました。
でも、そんな智君の手をつかんで、智君のお母さんは黙って家に連れ帰ります。

そしてある日、智君の家の前にはトラックが止まっていて・・・。

□ワシントンポスト・マーチ□

たけしと同じ養護学校で同じ六年生の美幸は、楽しみにしていたお兄さんの結婚式に出ることができずに、教室でぐわーっと泣いていました。

そして何を思ったのか、美幸がたけしに殴りかかろうとしたので、結婚式に出られなくてよかったな!と、ついたけしは言い返してしまいました。

でも、美幸がなぜ結婚式に出られなかったのか、たけし自身も理解する日がやってきます。

たけしのお姉さんも、結婚を控えています。
そんな中、松田のおばさんが家にやってきて、こんなことを言ってきたのです。

それは
親戚を代表して言うが、親戚中に恥をかかせるな!
障害者が結婚式に出てもらっては、親戚としては困る。
親戚の、嫁入り前の娘がいる家のことも考えろ!
という意味のことでした。

お母さんは悔しくて怒ります。お姉さんも怒り狂います。
でもお父さんは、お姉さんの結婚式にたけしの欠席も考え始めました。

辛そうなお母さんを見て、たけしは「(体が)緊張するから、結婚式やめようかな」と言ったのでした。

そんな時、お姉さんが婚約者と一緒に家に帰ってきます。
婚約者の俊二さんは言います。
「弟の君がいないんじゃ、話にならないじゃないか」
そして、結婚式の会場には、たけしが車椅子ごと参加できる場所も用意してくれていました。

とても明るく優しい婚約者の俊二に、たけしも結婚式に出席するように言われて、お父さんも喜びました。

そして結婚式の翌日、先生に「結婚式はどうだった?」と聞かれます。

側では美幸がキッと睨んでいます。
そんな美幸を見て、たけしが言った答えは・・・。

◇まとめ◇

かなりのネタバレになってしまいましたが、この本の凄さと、何を伝えたいのかを知っていただきたいと思いました。

本編の文章は、息をのむほどに臨場感にあふれ、心揺さぶられます。

本当に、全ての人に読んでいただきたい本です。
そして、自分達には関係ないなんてことはない、ずっと遠いところで起きているようなことでもない、ということを知っていただければ・・・そう願ってやみません。